活版印刷の道具たち

ホーム活版印刷の道具たちその他関孝和全集

関孝和全集せきたかかずぜんしゅう

和算は日本独自に発達した数学であり、関孝和は江戸時代の天才和算家(数学者)です。「関孝和全集」は、和算ひとすじに歩んだ平山諦(あきら)先生のご依頼で出版されました。

できるだけ原本の形をとどめるとのことで、極めて煩雑な活版制作が必要になりました。また、「算木」という中国伝来の計算用具を記号化したものが、活字の文章の中に組み込まれていました。先生が関孝和全集を出版することになったときに、出版社は東京・大阪の数学教科書を専門にしている印刷会社を回ってみたそうです。ですが、どこに行っても断られ、一時は諦めて先生に伝えたそうです。そこで先生から以前に印刷を依頼したことのある当社を薦めていただき、算木も独自に活字化して印刷されました。

弊社刊行の「文化伝承叢書 特別編 妝匣の本質-ひたむきに生きる、刷匠たちの念い」に掲載しております、関孝和全集の作成にまつわる当時のエピソードを一部抜粋してご紹介いたします。

第六章 笹氣出版の金字塔

三 和算研究ひとすじに より

(前略)

平山諦先生のもとに『関孝和全集』に使用する原稿をいただきに行った直三が、

「とにかく挿図にみるように、『括要算法巻利』という書の三角・四角・大小の丸で描かれる図は、正確に計算することは難しく、版下を書くことなど至難の技です。これは和算家のソロバンに頼るしか仕方がないですから、目勘定で一九角形や二〇角形の図を『カラス口』で書けといわれても、書けるわけがありません」

と、率直に申し上げると

「図は当然、僕が計算、作画して版下を作ります。ただ、図に挿入する漢字を全部書き出しますから印刷してください。それを、書いた図に貼りこみますから」

と先生がおっしゃる。

『組版』の方を見ると、『算木』という日本国中どこの活字製造所をさがしても出てこない変なものが活字の文章の中に組み込まれているのだ。平山先生は、関孝和全集を出版することになったとき、初めは、原稿を持って東京と大阪の数学教科書を専門にしている印刷会社を回ってみたそうだ。だが、どこに行っても断られ、一時はあきらめたという。

(中略)

さて、組版には図のように算木をならべたようなページが随所に出てくるし、本文はすべて漢文といった書であるため、1日の『植字』の能率が他の印刷物の3分の1も上がらなかった。だが、それでもなおこの算木を活字にした笹氣出版印刷と平山諦先生とのコンビがあって、これらの書物が東京ではなく杜の都・仙台で実現したのである。

(後略)

笹氣出版「文化伝承叢書 特別編 妝匣の本質-ひたむきに生きる、刷匠たちの念い」pp.185-186(一部改変)

文化伝承叢書 特別編

妝匣の本質-ひたむきに生きる、刷匠たちの念い

笹氣出版 (著, 編集)

¥2,200